『こんな綺麗な空を見るのは久しぶりだな。』
『はい。』
蝦夷に来て初めて2人で
ゆっくり眺めた空だった。五稜郭での戦いが終わり
風間さんとの戦いも終わりやっと2人でいる時間ができた。
『長かったな。』
『はい。』
本当に長かったと思う。
私達の出逢いは京の都。
それからいろんな人と出逢って、、、。
『どうした?千鶴?』
そういって私の涙を拭ってくれる手はとても暖かいものだった。
『ちょっとみんなを思い出してしまって、、、。』
病気で床に伏してしまった沖田さん。
会津に残った斎藤さん。
羅刹になってもまだみんなを思って頑張った平助君。
永倉さんと一緒に隊を脱退した原田さん。
そう一人一人が思い出される度
涙が1つ。また1つと
出てくるのだった。
『土方さんは悲しくないんですか?』
彼は困惑気味にしかし
何かを決心したらしく
妙に晴れた顔をこちらに向けて言った。
『悲しくないわけじゃねぇ。よーく考えてみろ。
お前より俺の方が付き合い長いんだぞ。』
彼は苦笑いというかんじでこちらをみやった。
しかし、急に真剣な顔になって
『奴らの思いはこの御旗と共に俺が受け継いだ。
新選組副長として、新選組の一員として。
それに今俺が悲しさなんて忘れて生きていられるのは
奴らの思いを受け継いだせいもあるだろうけどよ、
やっぱり千鶴、お前のおかげだよ。』
『え?』
思いもよらぬ返答に私は
狼狽した。
『ど、どういう意味ですか?』
『ん?なんだよ。そのまんまじゃねぇか。』
いつもの不機嫌そうな顔に幾らか照れのようなものを浮かべて言った。
『だ、だからあれだよ。
お前は本当に鈍いなぁ。
お前のために生きるっていうのも悪くねぇって前に言わなかったか?』
『え?』
彼女は顔を真っ赤に
させながらこちらをみた。
『私が土方さんの生きる希望?』
『あぁ。そうだ。』
赤くなっていた顔を更に赤くしながら彼女は聞いた。
『そ、それはつまり、私のために生きてくれるという事ですか?』
俺は多少顔を斜めに傾けながら
『だっだからそうだって言ってんだろ。』
照れ隠しのつもりだったが奴には俺の気持ちがわかるのか否か
『土方さんって、可愛いですよね。』
『うるせぇ。』
俺は少し黙ってから
『お前の方が可愛いよ。』
ぼそりと小さな声で言った。
春の月が
風に舞う桜の花びらを照らし極めて幻想的な風景になった。
『来年も2人でこの風景を見れるといいな。』
さっきの言葉が聞こえたのか顔が紅潮していた。
しかしその肌に雫が伝った。
『何で、そんなこというんですか!
来年なんて言わないでください。
ずっと一緒に見れるに決まってるじゃないですか!』
赤子のように泣きじゃくる彼女を
不意にいとおしく思った。
―彼女は俺のために泣いている。
『私を1人にしないで下さい。』
潤んだ瞳をこちらに向け
精一杯訴えた。
そんな事をしても
俺はいつか砂になっ
ちまうのに。
ふっと笑って俺は
彼女の頭を撫でた。
そして俺は言葉を放った。
彼女を安心させるために
彼女が泣き止むように
『あぁ、そうだな。
俺は俺がこの世にいる間
ずっとお前のそばにいると誓おう。
そしてお前は誰にもやらないし、離さない。
お前もこんな俺様を選んだことを後悔するなよ?』
『後悔なんてしません。』
瞳に揺るがない炎を宿しながら言った。
『本当だな?』
『はい。』
『好きだ。千鶴。』
精一杯の思いを込めて。
2人は夜桜の下抱き合った。
―俺がいつまでこの世に
いれるかなんてわからねぇ。
でも、俺はお前を離すつもりなんてさらさらねぇ。
羅刹なら羅刹らしく
しぶとく生きてやろうじゃねぇか。
見てろよ。お前ら。
俺はこの世で生きる目的を
守るためにまだまだ
お前らのいる場所には
行けそうにねぇ。
寂しいだろうが
とりあえず今は待っててくれ。
桜を見上げそんな事を口走った。
風がどこからか吹いてきて俺たちの背中を押した気がした。
『そろそろ行くか。』
『はい。』
『千鶴、ありがとな。』
春の夜桜。春の月。
幻想的なこの空間。
来年もまた出逢う。
必ず出逢う気がしてる。
またこの場所でまたこの人と。
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