春の日差しが暖かな午後。
今日は巡察もないことだし、僕は縁側でうたた寝をしていた。
桜の花びらが春の風に心地よくそよいでいた。
―風流だなぁ。
すると、どしどしと慌ただしい足音が聞こえて
『おい、総司。』
聞き覚えのある声が聞こえた。
なんだまた怒ってるのか。
『なんですか?土方さん。
僕の貴重な昼寝の時間。邪魔しないでくれますか?』
案の定やっぱり土方さんだった。
今日は何だろうと内心わくわくしていた。
土方さんは反応が面白いからたまらない。
『てめぇは、いつでも気楽でいいなぁ。
ってそんなことをいいに来た訳じゃねぇ。』
彼は凄く真剣な顔になった。
僕は内心どきりとしながらも耳を傾けた。
―嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な予感。
何もかも砕け、崩れ去ってしまうかのような予感。
『今から言うことを真剣に聞いてくれ。』
土方さんは一呼吸して
僕の人生を、僕の心を壊す言葉を吐いた。
『今日限りでお前には新選組をやめてもらう。』
―パチン。
僕のなかの何かが 内の中から破れた音がした。
その破れたものは きっと針で縫おうとも
糊でくっつけようともだめな気がした。
だって内面から壊れてしまったんだから。
目前の景色が歪んできた。
外に咲いた桜がくるくる回っている。
目がチカチカしてきた。
頭がクラクラしてきた。
『ふはははは。』
土方さんはただただ僕を見ていた。
目には涙が溢れんとばかりに吹き出してきた。
拭っても拭っても拭いきれない液体。
―やだなぁ。なんで溢れてくるんだろ。
やっとのことで僕は言葉を紡ぎだした。
『何で、何でなんですか?土方さんが僕の事嫌いだからですか?』
言葉と共に激しい嗚咽が走る。
土方さんはやや目をふせながらいう。
『―会津公の命令だ。
新選組一番組組長、沖田総司をやめさせろと、な。』
会津公は新選組の上役だ。
何で、何で僕なの?
ねぇ、冗談だよね?
いくら叫んでも叫んでも、声にはならなかった。
まるでその言葉が僕に 呪いをかけたように。
『、、、。総司。』
土方さんは、真っ直ぐ居直って、僕の瞳の中を覗いた。
『、、、。総司。
てめぇには悪いが今日で、今日でこの屯所から、、、
いや、新選組から去ってもらう。
早く荷物まとめとけ。』
『土方さんは、僕に行き場がないの、知ってますよね、、、?』
『―あぁ。』
―僕はここの他に居場所はない。
どこに行ったって、
こんな僕を受け入れてくれはないだろう。
刀の腕は人より優れているとは自分でも思うけど
刀さえなければ、ただの人間に過ぎない。
―そ う、刀 さ え な け れ ば ―。
『早く支度しろ。
おい、総司いつまでも呆けてんじゃねぇ。
いい加減にしろ。
今のお前なんか新選組に必要ねぇ。
ろくに戦えやしねぇし、役にもたたねぇ。
今じゃお前はただのお荷物だ。』
土方さんが時が過ぎるにつれて
鬼の様な形相になっていった。
その表情は殺す。
その言葉に支配された顔になっていた。
― 僕 は ひ つ よ う な い?
頭がそんな言葉に支配された。
―僕は い ら な い ?
刀を抜く音がしたその瞬間視界が真っ赤になった。
―あぁ。きっとぐずぐずしてるから
土方さんに斬られたんだろな。
あぁ。僕は い ら な い ?
すると真っ赤になった視界が急に揺れ始めた。
引きずられてるのかな―?
―おい、おい総司。
聞き慣れた声が聞こえた。
―おい、どうしたんだよ。おい、総司。
だんだん怒りのこもった声になっていった。
―こんなとこで寝てんじゃねぇよ。
ったく、世話の妬ける野郎だな。
寝 て る 、、、 ?
僕 が 、、、 ?
その次の瞬間。
僕は起き上がって、土方さんに抱きついていた。
『うぅう!なんだ、てめ総司!気持ちわりィ!
って涙ためてどうしたんだよ。』
土方さん、、、?そしてここは屯所、、、?
―今までのは夢?
夢だった!悪夢だった!
その瞬間目から涙が 沢山溢れてきた。
確認のためこの言葉を放った。
『僕は、僕は、この新選組の一員。
いや新選組一番組組長沖田総司ですよね!』
―土方さんは今までになく驚いていた。
『どっどうしたんだよ。
涙といい、今の言動といい、おまえちょっとおかしいぞ。
あっ(昨日の豆腐やっぱり腐ってたか。)
とっとりあえず酒と薬持ってくるからここで待ってろ』
土方さんは部屋から出たのが見えない位の速さで出ていった。
―行っちゃった。
あれは夢だったんだ。
僕の居場所はここの他にない。
そう思うと顔が綻んでいった。
大好きな仲間と、大好きな人とここにいられる幸せ。
そういう些細な事にも感謝していこうと思う。
そんなことを 思っていると土方さんが 帰ってきた。
『おう、大丈夫か総司。
酒と薬だ。』
『ありがとう。』
その言葉に土方さんは目をぱちくりさせていた。
いつも礼なんて言わない僕が言ったんだもの。
驚くのもしょうがないと思う。
『お、おう。』
土方さんは半信半疑で頷いた。
『あの土方さん。』
『な、なんだよ。』
『僕、土方さんのこと嫌いじゃないよ。』
土方さんは苦笑しながら その言葉を受け取った。
そして、『俺もお前の事、嫌いじゃねぇよ。』
あはははと桜を見て笑いながら 僕はあの頃を思い出していた。