血 の 雨

「よぉ、べっぴんさん。
俺らはおまえら庶民の安全を守ってやってんだから
酒ぐらいつげよ。」
あきらかに酔った口調で
女に酒を注ぐようせがんでいた。
しかし女は全く聞こえない様子で
酒をちびちび呑んでいた。
一杯、、、。二杯、、、。
三杯目を呑みほそうとした
その時、男はその女の態度に腹がたちついに罵声をあげた。
「聞こえてんだろ、このアマ!!
人をなめやがって!」
と刀を腰からとりだそうとした瞬間。
その男の刃を止める者がいた。
「お主らは庶民を守っているというのは
偽りではないのか。
お主らが守ってるのは庶民なんかではなく、
自分の地位や藩の名誉ぐらいだろ。」
男達を鋭利な言葉が突き刺した。
「なんだ―やんのか?
それとも女の前だからかっこつけたいだけか?
そんな女みてぇ細い体しやがって何ができるってんだ!」
男達は嘲笑した。
男は一人辱しめられた気分になったので
もう強気で対応するしか方法はなかった。
「カッコつけたいのでも、恩を売りたいのでも、なんでもない。
そういう事は場所を考えてやってくれ。」
最後の一言で男の顔は
沸騰したように紅くなった。
こんな餓鬼に俺が辱しめられるとは、、、。
「邪魔したな。」といって抜刀斎はひとり出口に向かっていった。
外に出て今まで自分が 言ってきた事を思い出した。
「今まであんな輩に腹をたてることなんてなかったのにな。」
自嘲気味にふっと息をもらしながら
まだ幼い自分を内心楽しんでいた。
そんな気分も束の間。
俺の横で肉を断つ音が聞こえた。
「たっ助けてくれ!!」
近くにいた人間が俺に助けをもとめてくる。
―さっきの酒屋の男ではないか。
その言葉を吐いた瞬間。
男の顔は真っ二つに割られ顔の隙間からは
血が溢れんとばかりに流れ出していた。
「お前が抜刀斎だな。」
その言葉の主は血に狂ったような笑みを
こちらに向けギラギラ笑っていた。
「お前は何者だ。」
「お前に教える必要などない!」
その言葉を最後に 俺達は刃を交えていた。
男は、並外れた剣の使い手であることが分かった。
かといって俺も負ける気はしない。
互いに無言の戦いが繰り広げられた。
そんななか、どこからか白梅の香りが
ほのかに香っていた。
こんな雨の中、何事だろうなどと考えていると
奴に剣を弾かれ、俺は奴の隠し武器の餌食になってしまっていた。
「ふふふ。抜刀斎よ、己の隙俺が頂いた。」
首に鎖がどんどんねじ込まれていき息をするのが困難になる。
「死ねぇぇぇ!」
しかし、俺もここで死ぬわけには行かない。
奴が空中を舞った瞬間刃を空に向け
奴を切り裂いた。
「あなたは本当に血の雨を降らせるんですね。」
あぁ、あの白梅の香り。
俺を狂わせるこの女。
俺の運命は狂々狂々と不吉なオトをたてて回ることになった。
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