或る血生臭い夜のこと。
梅雨の影響か、じめじめとした雨が地面に叩きつけられるようにして零れ落ちていた。
俺は、天誅と書かれた封書を懐にしまい、
1人暗い夜道をあてどもなく歩いていた。
「今日は冷えるな、、、。」もう桜の季節だというのに、冷たい風が吹き荒れている。
それを嫌うかの如く俺はほのかな明かりが灯っている温かそうな酒呑み場に入ることにした。
店主に適当な酒をと頼み出入口から一番近い席に座った。
店主から酒を受けとると
不思議な感覚に囚われた。皆がこちらを見ている気がしたのだ。
「きっと気のせいだろう。」
と自分を落ち着かせようと平静を装って
酒を注いで飲んでみるもののやはり気になって仕方がなかった。
いつ敵が襲ってきてもいいように刀に手をおいて、神経を研ぎ澄ませた。
この店にいる人達は本当は俺の正体を知っているのではないだろうか。と不安になった。
そして皆俺の敵なのではないかとー。
店の客ではなく、新時代のためといい修羅さながらに人を斬っている人斬り。
緋村抜刀斎またの名を人斬り抜刀斎。
だという真実を。皆は知っているのだろうか。
この話は決して余所者は知らない話でなくてはならないのに。
などと思慮に思慮を重ねていると、、、。
皆がこちらを見ている訳がわかった。
皆が見ているのは人斬りの自分ではなく、
自分の後ろにいるついさっきこの店に入ってきた一人の女だった。
その女と目が合った瞬間、何もかも壊れていく気がした―
それは具体的に何だかは分らないが。
そしてそれが後に知る俺と雪代巴の出逢いだった―
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